魔女のベシーに言い分はある

セラピーについて

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商い

凍り付いた噴水に、投げ込まれた形のまま空き缶が浮かんでいる。 その横で鳩が膨らんでいる。鳩の細い脚は、雪に埋もれている。 鳩が雪を踏む。脚の色は赤い。 雪が真横から吹き込んで、マフラーにつもった。 冷凍庫の中にいるようなぴしぴしとした寒さ。 空気がプラスチックのように固い。クリーンなにおいがする。 手がかじかむので、手袋の中でさらにぎゅっと握る。

お客さんがやってきた。 「食パンはありますか」 「ありますよ。何枚ですか」 「三枚です」 「六枚切りと八枚切りがありますけど」 「あー、ああ、えっと、じゃあ、六枚で」 「六枚切りを三枚でもできますけど」 「あ、うー、はい、えっと、いいんですか」 「いいですよ」 「そういう風にできるんですか」 「どういう風でもできますよ」 「じゃあ、六枚切りを三枚で、お願いします、すみません」 気がつくと私はしかめ面をしていたらしい。 年を取るとはそういうことだ。顔がしかめ面のまま固まるのだ。 けっして、愛想を悪くしたい訳でもないし、不機嫌でもないのだけど、皺が固まっているのだ。 よく見ると笑い皺なんだけど。 若者には、笑い皺との区別はつかないのね、きっと。 私は大げさににっこりした。 「いいですよ、ちょっと待っていてね」 工房の中に入る。お客さんはじっと待っている。 私はいつものようにパンを袋に入れる。そして戻る。 「はい、いいですか、95円ね、このままで」 「ありがとうございます。えっと、すみません」 なぜ、この子はこんなに謝るのだろうと不思議に思う。 謝る必要なんてどこにもないのに。 お客さんは店の外に出た。 外は真っ白なのに、暗い。見慣れた風景だ。でもきれいだ。

明日は日曜日で、あさっても日曜日だ。永遠に続く冬休みだ。引き延ばされていく。 でも、この食パンはいいにおいだ。イーストの発酵したときのちょっと酸っぱいにおいがする。小麦粉の香ばしいにおいも、甘いにおいもする。 雪も、白いし。パンも白いし。なんか、それで別にいいのかもしれない。明日が明後日になっても。明後日が今日になっても。